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fly high

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後に映画化もされた、松本大洋の評価と認知度を押し上げた代表作。

魅力溢れる多くのキャラクター達がシンプルなストーリーの中で躍動する
王道路線のスポーツ・成長もので、
松本作品で最も読みやすい作品とも言えるかもしれない。

そんなこの"ピンポン"を語るとなれば、最終巻の盛り上がりについて避けることは出来ないだろう。

かつての天才卓球少年ペコが、才能の貯金だけでは輝きを保てなくなり、
大いなる挫折の後に捻くれて半ば引退というところまで堕落。
しかし、ついに目覚めた彼がタムラのオババとのトレーニングの後に挑んだ二回目の県予選で、
県内最強プレイヤーのドラゴン、そしてスマイルと繰り広げるクライマックスは、
緊張感、スピード感、躍動感…などなど、それらのどれをとっても超一級だ。

比較的マイペースだった中盤が嘘のような終盤の盛り上がりだが、
これはペコのモチベーションがそのまま作品の起伏になっていることを意味する。
ペコが乗っていれば話は面白いし、ペコが怠ければ作品も足踏み。
そういう意味でも、やっぱり彼は「ヒーロー」なのだ。

そのコントラストとして、脇を固めるキャラクター陣からは哀愁が漂う。
ペコとスマイルの最大の「被害者」は留学生の孔文革だ。
卓球留学と言えば聞こえはいいが、台湾のナショナルチームから落選し、
都落ちして最後の勝負の賭けにやってきたのが日本だったのである。
そんな彼は、来日当初こそペコをスコンクで破るなどスキルの違いを見せつけていたが、
その直後対戦したスマイルにはまったく歯が立たず、2年の大会にはペコにもストレート負けを喫し、
極東の地において自らの限界を突きつけられることになる。
自信満々で現れた登場シーンを思い返すと、徐々に陰が差して行く彼の姿は寂しく、切ない。
(しかし、チームメートとのやり取りを見たところでは、彼は別のものを手にしたようでもあるが。)

打ちのめされるのは、最強の名を欲しいままにする海王学園の選手とて例外ではない。
主将であるドラゴンを除く各メンバーは、悉くペコとスマイルの前に敗れ去り、
その才能の差、生きる世界の違いをまざまざと見せ付けられるのだ。
中でも、二人の幼馴染でもあるアクマは、努力に努力を重ねても尚敗れ、
強制退部の憂き目に逢う悲劇的な立場でありながら、だからこそ親近感の持てる役どころ。

全5巻で尻上がりに盛り上がっていく展開も含めて、文句無くお勧めの作品。
by taku_yoshioka | 2012-02-10 23:59 | comic

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka