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Tonight the Streets Are Ours

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現在のストリート・アーティストの中でも名実共にナンバーワンと言える
バンクシーの初監督作品であるドキュメンタリー映画。
いきなりアカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされるなど、
彼の才覚には改めて驚きなのだが、その中身はというと
なかなか捻くれていて鑑賞し甲斐がある。
ある意味、ストリートに残されたグラフィティよりもバンダリズムを感じるかも。

事前に耳に入ってきていた「バンクシーの映画」という情報からは
勝手に「バンクシーの(活動を追った)映画」を想像していたのだが、
実際のところはあくまでも「バンクシーの(監督した)映画」。
主人公はバンクシー本人ではなく、ティエリー・グエッタというフランス人だ。
(考えてみれば、バンクシーの活動を知りたいのであれば作品を観た方がいいし、
映像にしたってYouTube上にそれなりにあるから映画にするほどでもない。)

さて、これまでグラフィティ・アーティストとして活動を続けてきたバンクシーが
わざわざディレクターチェアに座ったということは
それだけの理由、つまり伝えたいことがあるということ。
発端はティエリー・グエッタが起こした「大事件」にあった。

ティエリー・グエッタは、ストリート・アーティストのインベーダーを従兄弟に持ちながらも、
自身は最初からアーティストとして活動していたわけではない。
LAで古着屋を営んで暮らしていた普通のおじさんだ。

転機となったのはインベーダーの活動記録の撮影。
以降、彼は次々とストリートアーティストに同行しカメラを回すことになる。
その流れでバンクシーともコンタクトをとる訳だが、仲を深めたティエリーは彼に薦められ
莫大なライブラリーを活用したストリート・アートの映画作品を制作した。

出来上がってきた映画はそれはそれは酷い出来で、
その惨状を観たバンクシーは、今度はアーティストそのものになることをティエリーに進言。
どこまで本心だったかもわからないこの発言を真に受けたティエリーは、
驚くべき勢いで作品制作に没頭する。

盲目的に突き進んだ彼は、程なくハリウッドのギャラリーを借り切っての個展の開催を決意。
全財産を投げ打ち、まさに人生をかけての勝負に出る。

結果から言うと、このエキシビジョン自体は大成功を収め、
MBW(Mr. Brainwash)と名乗るティエリー・グエッタは一躍時の人となった。
しかし、成功してしまったことが問題でもある。

数多くのアーティストの作品や活動を間近で見てきたが故に、
それらのよさを無邪気に取り入れ、
完成したティエリーの作品にはオリジナリティが希薄であった。
例えば、有名人やキャンベルのスープ缶をモチーフとして、
カラフルなシルクスクリーンで表現した作品郡は
アンディ・ウォーホルのそれと似すぎているくらい似ている。

本来であれば、そのような薄口の作品が世に認められるはずもなかったのだが、
事前のプロモーションがこの物語の鍵を握っていた。

作品の出来はともかく、ティエリーの持ち前の大言壮語と行動力で
広報戦略はとんとん拍子で事が運んでいたのだ。
さらに、他でもないバンクシーの推薦文が決定打に。
地元の最大紙LAウィークリーの一面にも取り上げられたティエリーの展示は、
地域の一大イベントとして待たれることとなる。

その結果、ティエリーは本質を伴わないまま、
ファーストステップで異例の出世を遂げることとなる。

一方で、その輝かしい成功は、落とした影もまた大きく、
ここにこそバンクシーからのメッセージが込められている。

アートとは、その評価とは、価値とは、さらに言えばその意味とは。
いずれもが余りにも不確かで、危ういことが示されてしまった。
それも、数年前まではアーティストではなかった人物に。

とは言え、ティエリー・グエッタもアーティストとしての「モラル」や「センス」がなかっただけで、
いい感じのキチガイさんであることは間違いがなく
一時期にせよバンクシーが本当に気に入ったのも頷ける。
24時間ビデオカメラを回し続けるなんて正気の沙汰ではない。

それに、この映画のトーンとして、ティエリーへの糾弾が前面に出ているわけではなく、
ティエリーのキャラクターも相俟ってコミカルなトーンで話は進むし、
バンクシーを始めとするアーティストの面々も怒りを通り越して苦笑い。
このあたりのバランス感覚が、バンクシーの作家性だと思う。

ちなみに、世界中の街に「OBEY」と描かれたポスターなどを貼りまくり、
繰り返しと刷り込みの力を証明したシェパード・フェアリーの話を聴けたり、
エンドクレジットからはKAWSやB+の名前を見つけることが出来たりと、
ストリート・アートに興味があればなんとなく見ているだけでも楽しい作品でもある。


※いささか深読みしすぎかもしれないが、
 MBWの大成功(と一連の騒動)すらも バンクシーの「作品」であって、
 我々はまんまと彼の掌中で踊らされているのかもしれない…。
by taku_yoshioka | 2011-09-02 00:07 | movie

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka