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扇の要と称されながらも、日陰者となっているキャッチャーにスポットを当てた
2002年のシーズン開始前発売の新書。

状況やセオリーが日々変化し進歩するスポーツについての新書を10年近く経ってから読むと、
発売当時には持っていた意味や意義が薄まってしまうが、
一方で、だからこそ生まれる一種の歴史的資料としての価値はあるのでそれはそれでアリ。

ちなみに、当時の様子を感じさせる部分としては、
球界ナンバーワン捕手として幾度も取り上げられる古田敦也や
成長株筆頭として名が挙げられている城島健司、
一方で若さからくる経験不足が指摘される阿部慎之助への言及などがある。

もちろん、これらは2011年現在では状況が異なる。
残念ながら今の球界には圧倒的なナンバーワン捕手が存在しないし、
MLBでの捕手の成功の難しさについても触れられているが
2006年には城島健司が渡米しマリナーズの正捕手として定着するし、
今や阿部慎之助のリードを評価する者は少なくない。

さて、前置きが長くなったが本題。

本書は捕手「論」とは銘打たれているが
ロジカルな分析に基づく技術書や理論書ではない。
当事者である捕手やその一番のパートナーである投手、
さらには捕手と最も近い始点の主審からの取材を元に構成されている。
もっとも、経験こそが最大の武器となるキャッチャーというポジションを語る上で
実際のエピソードほど重要なものはないのだけれど。

さらに言えば、役割上「企業秘密」も少なくないはずなので、
配球術などについては部分的/表層的にしか扱われていない。
このあたりは自らで経験・研究するしかないといったところか。

披露される数々のエピソードの中でも特に印象的なのが
かの有名な「江夏の21球」を捕手・水沼四郎の視点から語っている部分。
(そもそも、主語が「江夏豊の」となっていること自体が
捕手の陰の立役者然とした立ち位置をよく現している、と読後は思ったりもする。)

別に、手柄の奪い合いをしているわけでもないのだが、
細かい配球の理由や、それに冠する思惑が異なっていたり、
さらには記憶違いがあったりと、
両者の観方を比較しながら追体験することができるのが面白い。

そして、細部には多少の差異こそあれ、
全体としては相手のことを尊重しているというのもポイントだ。
名場面に名夫婦あり、といったところか。

他にも、投手とのやり取りにおける信頼関係の構築から、
ブロッキングやキャッチングという細かい部分のちょっとしたテクニックまで、
捕手を知る入門書としては十分すぎるほど網羅されている。
読むのに時間も要さないので、キャッチャーに興味があれば是非(乱暴な結句…)。
by taku_yoshioka | 2011-08-15 01:07 | book

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka