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his sword must be bamboo!

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松本大洋ここにあり。
読み進めながら表現力のあまりの凄さに、久々に声を漏らしてしまった作品。

この"竹光侍"では、松本大洋が在籍していた漫画研究会の先輩でもある永福一成に
ストーリーの舵取りを任せ、松本大洋自身は画を描くことにいつも以上に注力した。
これが奏功したのか、今までの集大成とも言うべき境地に到達しており、
自由でありながらも戦慄を覚えるような伸びやかさのある筆致が全編通して冴え渡る。
そこから産み出されたどの巻にも複数ある「決め」の画(あるいは何気ない一コマ)に、
驚嘆するあまり頬は緩み、思わず「おぉー」と言いながら読んでいたという訳です。

松本大洋の何が凄いかと言うと、世界観の奥深さ等々もさることながら、
技術と感性が見事に融合し生み出される画の力にあると思う。
その表現は奔放かつ斬新、それでいて伝わる。

中でも、個人的に特に印象に残ったのが「動き」の描写。
激しい動きのあるシーン自体はこれまでも多くの作品にもあった。
名作"ピンポン"のラスト然り、一つ前の"ナンバーファイブ 吾"の戦闘シーン然り。
そして、この動きの描き方にも松本大洋特有の「癖」があり、
つま先や手首などの対幹から遠い部分にクローズアップしたコマが必ず挟み込まれる
(例えば、鳥山明の描く格闘シーンと比較すると違いがよくわかる)。

ただ、想像がつく通り、この表現法だと人物の全体が見えなくなったり、
位置関係が追いにくくなったりということがしばしば起こる。
それが今作では解消されていて(具体的に指摘・説明できないのがもどかしいですが)、
特殊なカメラワークでありながら混乱を招く部分がほとんどなく、
クライマックスの立ち合いのシーンの完成度は尋常ではない。
そういった意味で「最高傑作」だと、読み終わって思っている。

松本大洋は、テクニカルで前衛的な画風からアート系だとかサブカル系だとか言われて、
どことなく孤高の雰囲気を持ち、多少ハードルが高い漫画家の一人になっている部分もある。
もしくは単にアクの強さから敬遠している人もいるのかもしれない。
けれど、もしそういう人がいるなら、それは損だと思う。
たった一コマの絵、その中の線の一本、点の一つに至るまで、
漏らすことなく観たくなるような漫画家を松本大洋の他に知らない。
by taku_yoshioka | 2011-02-06 01:30 | comic

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka