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predawn

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[※ネタバレあり]

自身の10代最後の約1年半を綴った自伝漫画。

あとがきにもある通り、虚飾なく素直に当時の出来事や思いを振り返っているのだが、
これが『シティライツ』を筆頭とした作品世界の登場人物を地で行くような微妙さ。
プロボクサーになりたいと告げて東京に出て来たはいいものの、
実際はそんなことなど毛頭考えていなかった大橋裕之が、
体面のためにジムに通いながら漫画家としてのデビューに向けて奮闘する姿が描かれる。

青春時代を題材としていることで、若さゆえの不安や絶望は忌憚なく描写され、
同時に僅かに射した光にすがる中、大橋少年の心を駆け巡るのは夢と現実の喜怒哀楽。

このピュアさこそが本作の肝なのだが、だからこその毀誉褒貶はあって然るべし。
過去作からも分かるように、大橋裕之が希代のストーリーテラーであることは疑いようが無い。
そしてそれは換言すると作り話の天才ということになり、
読者に湧き上がる感情もフィクションであるが故の安心感と共に受け入れられていたはずだ。
なのに、ここにきてこの生々しさである。何しろ、まったくもって本当のことなのだから、
単に「あるあるネタ」として笑い飛ばすのも若干憚られる。
それほどに、大橋少年が過ごした10代最後の夏の経験はシリアスだ。

だがその強い思いは、ストレートに胸を打つ。
サブカルコミックシーンの新しい旗手のような扱いをされ、
飄々としたタッチで紡がれている物語がシュールの一言で片付けられがちな彼だが、
そのバックボーンに確かに存在した青くがむしゃらな気持ちは純粋に美しい。

また、どのような漫画家に感銘を受けていたのか、
なぜトーンや書き込みの少ない作風に至ったのかなどへの言及は、
大橋作品を紐解く上での貴重な資料にもなる。
一度見たら忘れられない特徴的なあの「目」の描き方についても、
その発想のプロセスについてネタばらししてくれているので必見だ。

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by taku_yoshioka | 2013-12-08 23:26 | comic

街から街へのタイムスリップで恋して飛んでくシティーライツランデブー(CITY LIGHTS/andymori)

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余りにも早い終幕だった。『シティライツ』ここに終了。

打ち切りという形で止む無くピリオドが打たれてしまったことが推測されるが、
いかに不本意であったか(そしてやりきれないか)は、
発表時の大橋裕之のコメントにも滲み出ていた。
徐々に愛読者やメディア露出を増やしている中で
このような結果になってしまったことは非常に残念だ。

さて、最終巻となってしまった3冊目の単行本において、
これまで築き上げてきたスタイルは一つの完成をみたと言っていい。

"漫画神"での見事なまでの円環構造、"帰郷"中の見開きで一際煌めく青春のワンシーン、
"良子の変"における叙情的な展開を台無しにするナンセンスなオチ、
そのどれもがマスタークラスの構成である。
最終話"光"には、クリエイターが残した作品が
その死後も人の心を照らす可能性を持つのだという確信にも似た強い思いが込められた。
読み終えて思う。シンプルに言って、もっと読みたい作品だった。

しかしながら、今後の作品についてそこまで憂慮していない部分もある。
『シティライツ』連載終了がもたらす最大の損失は、
定期的に発行されている商業誌での発表が途切れてしまうということだ。
そして、実はそれ以上の大きなダメージは実はないのではないかとも感じている。
特定の主人公を持たない短編である以上、実は定期的連載ではなくてもよかった作品だし、
今年単行本化された『夏の日』などを読む限りでは、
商業誌への連載の有無を問わず大橋裕之はひとつの銘柄として信頼しきってしまっていいと思う。
発表のペースや手法は必然的に変わってしまうのであろうが、
これからも追いかけていきたい漫画家の一人だ。

最後に、今回の完結に際して、これまで『シティライツ』関連の色塗りやトーン貼り、
表紙デザインなどを手がけてきた奥田亜紀子にも改めて賛辞を。
大橋裕之の独特なタッチの絵の魅力をさらに引き出す才知の持ち主で、
中でもトーン貼りに関しては一つのアートとして成立している域にある。嘆息。
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by taku_yoshioka | 2012-12-17 23:59 | comic

抑えきれない 冒険衝動 誰もが戻る 少年少女(イツナロウバ/KICK THE CAN CREW)

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[ネタバレあり]

9月半ばに唐突に告知され、夏の終わりに発売となった大橋裕之の最新単行本。
自費出版時代から続く物語からpapyrus誌での連載、それに描き下ろしを加えた一冊で、
おそらくボリューム的には初の長編もの(1冊で1つの話)と捉えていいと思う。

キーワードは、夏、少年少女、友情、恋、冒険、別れ、田舎道、世界の終わり、などなど。
これらの言葉から想起される往年の名作たちの面影を取り込みつつ、
大橋裕之の個性が顔をのぞかせる新しい夏のクラシックがここにある。

すでに達人の域と評しても過言ではないストーリーテリングの妙は本作でも健在。
むしろ、このページ数だからこそできた強弱もあり、
そのまま映画に出来てしまいそうな素晴らしい展開と構成だ。
特に、セリフなしのサイレント演出で綴られるラスト数ページは圧巻で、
美しく切ないひと夏の経験を締めくくるに相応しい名シーン。
同時にこの物語が夏にしか存在し得ないことを強く印象付ける。
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by taku_yoshioka | 2012-10-06 00:38 | comic

待ち合わせは高円寺 名前なんかない猫と行く(CITY LIGHTS/andymori)

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鮮烈なデビューとなった1巻があまりにも良かったので、
この後良くなる余地やテンションを保つ余裕はあるのかとすら思っていたが、その心配は杞憂に終わった。

むしろ、クオリティは上がっているといっていい。
ショートストーリーの紡ぎ手としての洗練度合いが尋常ではない。
コマ割から展開まで、手探りに近い状態ながらも才気を発していたファースト・ステージを終え、
一つの「型」に近いものを手に入れた段階が今だ。

そのポイントは、端的に言えばギャップの活用。それも、極めて有効かつ的確な。
不条理なギャグで大いに笑わせてくれたかと思えば、
クライマックスで突如としてトーンダウンして切ない一幕を見せる。
これが強烈に心に刺さる。圧倒される快感すらあると言ってもいい。
(その構成があまりにも巧すぎるせいで、かえって笑ってしまうのだが、
この時こぼれた笑いはまた違う種類の感動。)
これ程までに美しいラストシーンが次から次に出てくる短編集はそう出会えるものではない。

使い古された謳い文句を使うなら「笑いあり、涙あり」といったところか。
しかし、王道の作品のそれとは一味違う、新世代の質感とリアルさが"シティライツ"にはある。
登場人物のその後の人生を思わず考えてしまうのも、このリアリティがあるからこそだと思う、
(リエコ桜木さんも、新籾さんとは恋人ではなく親友になってしまったんだろうな、とか)。
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by taku_yoshioka | 2012-06-29 00:31 | comic

musicomic

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"シティライツ"の刊行で、にわかに(周囲が)盛り上がりを見せる大橋裕之の作品集。
本作は、自主制作作品に「ボーナストラック」的な描き下ろしを加えた、
いわばインディーズ・ベスト的な趣のある構成の一冊だ。

表題作の一つであり、元々は独立した単行本でもあった"音楽"は、
バンドとして集合して最初の音を鳴らす瞬間の快感あり、
"London Calling"のジャケット写真を模した楽器破壊シーンありと、
音楽好きにも刺さる演出がところどころに施されており、
一見するとゆるいギャグ漫画のようだが芯のある作品。
いかにも学園モノな終わり方も悪くない。

決して上手い絵ではないのだが、些細な仕草の描写はセンスがあり、
不良の振り向き方(恐らくはクセ)や山で熊と出くわしてしまったときの対応は、
サラッと描かれているが相当にツボを抑えている。
そして、どの話も結び方が気持ちいい。
やはり、なかなかのストーリーテラーだ。

"ラーメン"の切なさが心に残る。
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by taku_yoshioka | 2011-11-09 22:09 | comic

完成形を目指して 夜に飛ぶ鳥 ミサイルも魔女も越えてあの街まで行け(CITY LIGHTS/andymori)

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まず、1巻の発売に際して寄せられたコメントや賞賛が凄い。
巻末の対談や発売記念の大喜利(!)イベントのパートナーでもある坂本慎太郎を始めとして、
ピース・又吉直樹や中原昌也、山下敦弘などの(かなり偏りのある)各種文科系関係者。
加えて、朝倉世界一、渡辺ペコといった同業者からも賛美の声が集まり、
極めて狭い村社会内での出来事ではあるが、ちょっとしたお祭り騒ぎに。

このように、発売前からある種の「路線」に乗ってしまったような本作品だが、
一度観たら忘れられない特徴的な目のキャラクターの存在感もさることながら、
とにかくストーリーの完成度が高い。
シュールさや不条理さと、ちょっとした笑いや涙を織り交ぜたいくつもの短編は、
そのどれもが不思議な感触とともにストンと腑に落ちてしまう。

中でも気に入っているのが"#1 峠"と"#8 ゆう子の秘密"。
両方とも少しいい話風の余韻がたまらない。
"#11 ともだち"のラストはもはや普通に感動する演出だ。

盛り上がりすぎたリコメンド合戦で却って敬遠してしまう人もいるかもしれないが、
推薦人と趣味が合うなら素直に読んでみるべき作品。
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by taku_yoshioka | 2011-11-01 00:03 | comic

Ok, it's the stylish century


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