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シュシュシュ めくられたカード シュシュシュ 夢が飛び出すの(ワック♪ワック♪B-hack/B-hack)

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[※ネタバレあり]

昔から「続編に名作無し」とはよく言われるところだが、
『SRサイタマノラッパー2〜女子ラッパー☆傷だらけのライム〜』は
そんなジンクスを軽く跳ね除けた快作だ。

些か乱暴な説明にはなるが、基本的には前作とはほぼ構成要素や展開を踏襲しつつ、
全体のブラッシュアップ/スケールアップを図った続編、というのが本作の概要になるだろう。
ただ、この精錬の度合いが「続編」との情報から想像されるレベルを超えており、
完成度は単なる2作目ではない別物といっていいほどに押し上げられた。
より大衆/一般向けになったと表現してもいい。

元々、プロットやシーンの作り方に関しては水準以上だった『SRサイタマノラッパー』だが、
撮り方の引き出しにも幅が出て映像としての強度が向上。
加えて、より良い器材を使えるようになったことで単純に画質も改善。
登場人物に目を向けると、今回の主人公となった20代後半の「女子」たちの痛々しさは、
「いい歳して」の響きがまた別の重みを持って心を打つ。
(ここには彼氏ナシの悲壮感の少なさこそが最も悲壮感に溢れるという恐ろしさも含まれる。)

物語はクライマックスの三回忌のシーンにて最高潮を迎える。
最前列中央のアユムを取り囲むようにして一同をフレームに収め切った構図からして素晴らしく、
昭和の名画を思い起こさせる普遍的な魅力すら感じさせる。文句なしの名場面。
親族に対しては頼りなさげに曖昧な口調と声量で応対していたアユムだったが、
次々と思いの丈をラップしに来る「乱入者」に促され、入魂のバースをキック。
実は状況という意味では何も解決はしていなかったりはするのだが、
アユムが殻を破ってこれから自分の道を信じて進んでいける予感がたしかにあった。

そして、続くエンドロールの映像も良い。
恋人はおらず、なんとなく働き、それでも曖昧な夢だけはある。
そんなときにヘッドフォンをつけて好きな音楽を聴きながら
人気の少ないお気に入りの道に差し掛かれば、
自然とあのような浮かれた歩き方になることだろう(少なくとも個人的にそうしたくはなる)。
やはり、この物語は主人公の名前通り「歩む」ことが大きなテーマなのだ。

さて、そんな『SRサイタマノラッパー2』が前作から変わってしまった部分についても最後に考えてみたい。
これは、端的に言えば「生々しい居心地の悪さ」になると思う。
ただ、言葉にして説明するには少し難しく、具体的な該当箇所を挙げるのであれば、
『SR』での名場面「会議室での擬似ライブ」やラストの「焼肉屋での説得フリースタイル」が一応は該当する。
しかし、前作が持っていた嫌な感じの元凶にあったのは、HIPHOPや日本語ラップへの不理解や誤解であり、
さらにはそれを扱った作品そのものへの信頼の少なさ(ないしは不明瞭さ)でもあった。
その後、「サイタマノラッパー」は一つのブランドとして認知され(てしまっ)た。
結果として、いかに似通った構成や展開を用いたとしても、
2作目では身悶えをしながら各場面と向き合うことはなくなったのである。

この微妙な感触は、インディーズレーベルから出した作品とメジャーデビュー後の作品との間に生じる、
繊細で制御困難な違いにも準えることが出来るかもしれない。
例えば、RIP SLYMEの『Talkin' cheap』と『FIVE』はどちらも名盤だが、
根幹部分は一貫して何一つブレていないながらも、
知名度や人気といった環境面から音質や音楽性の幅といった品質面まで、
上のステージに進むことで変わらざるを得なかった部分がある。
果たして『Talkin' cheap』の持つローファイな質感や「あと一歩」な雰囲気は、
『FIVE』からは失われるべくして失われたのである。
(もちろん、失ったという言い方は最適ではないし、そもそも得たものの方が大きいが。)

脱線気味な結びとなってしまったが、新ためて記しておこう。
『SRサイタマノラッパー2』は前作超えの快作だ。
by taku_yoshioka | 2012-12-20 00:23 | movie

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka