HIPHOP LIFE MUSIC 生きる歌 アメリカ、ヨーロッパ、いやJapan(未来は暗くない-The Next-/blast)
5年ほど前までは、日本におけるHIPHOPの情報を得るメディアといえば、
雑誌「blast」が筆頭かつ最も信頼できる媒体だった。
中でも、特に重要だったのが日本のHIPHOPに関するインフォメーション。
海外作品はbmrなどの他誌に頼ることも出来たが、
こと日本の作品となるとロック誌では扱いに偏りがあり、
なかなか横断的に網羅してチェックすることが出来なかったのだ。
そんな訳で、毎号の巻末レビューやインタビューはかなり貴重だった訳だが、
クロスビートの別冊時代から数えて実に12年半分のストックから、
日本のHIPHOP作品のみをチョイスして編集されたディスクガイドがこの一冊だ。
ここまで日本の作品に特化したディスクガイドというのは恐らく前例がないので、
本書が現状唯一の専門ガイド本ということになる。
厳選の上収録されているのは、アルバム・シングルetcを合わせて350枚。
一見多いようにも思えるが、実際に読んでみると少ないくらいで、
数的な制限から年によっては抜け落ちている作品もちらほら。
それでも、先に記したとおりオンリーワンな一冊としての意味合い・役割は大きく、
2007年までの作品をこれから聴き始めようという場合には大いに参考になることと思う。
個人的な話をすると、blastは間違いなく青春の雑誌であった。
日本語ラップの情報に飢えていた中高生時代、毎号発売を楽しみに待ち、
近所の書店に見当たらないときには渋谷や新宿のレコード店に足を運んだほどだ。
それ故、本書に収録されたレビューを読み返すと、
当時の気持ちを思い出して熱くなるものがある。
さて、2007年以降にリリースされた作品や、
本書の選定から漏れてしまった隠れ名盤についての処遇だが、
文化の発展(や個人の希望)を考えれば別の書籍でフォローされるべきではある。
だが、既存の媒体がアクションを起こしてどうにかなりそうな印象や、
そもそもアクションを起こしそうな気配は残念ながら無い。
やはり、専門誌の存在は大きかったのだと、5年のときを経て改めて痛感。
(余談)
blastを旗印に集まっていたライター陣も、休刊と共に離散した。
その後の彼らの活動について、特徴的なものを分かる限り以下にまとめてみた。
高橋芳朗は、毎週日曜日にTBSラジオで番組パーソナリティーを務めている。
同じく放送畑で活躍する古川耕は、構成作家としてのキャリアを充実させる傍ら、
書き仕事としては大友克洋がCMにも携わっていた"FREEDOM"シリーズのノベライズ作品を発表。
磯辺涼は引き続きライターとして活躍し、自身の記事をまとめた単行本を2冊上梓した。
また、最近はDOMMUNEのプログラム内での司会進行でその姿を見ることが出来る。
このガイドにも収録されている「結論から言おう」のフレーズから始まるレビューが印象的な二木崇は、
昨年5月に自宅にて突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
blastのレビュワーの中でも一際熱の入った(言い方をかえると感情的な)文体が印象的だった萩谷雄一は、
慶応大学のお膝元である日吉の地でカレー屋をオープンしたとのことだ。
二木信は、昨年9/11に行われたデモ「素人の乱」にて公安条例違反などの現行犯として逮捕され、
その名前を久しぶりに目にした人も多いと思う(見せしめとしての不当逮捕だとの声も多い)。
一ノ木裕之は、今も日本のHIPHOPアーティストのインタビュー・執筆で活躍中だ。
by taku_yoshioka
| 2012-06-03 20:20
| book