忘れてた 君の顔のりんかくを一寸 思い出してみたりした(NUMBER GIRL/IGGY POP FAN CLUB)
"Atari Shock"や"Omoide in my head"といった自主制作カセットテープの発表を経て、
1997年にリリースされたNUMBER GIRL唯一のインディーズアルバム。
翌年彼らは上京したため、福岡時代の唯一のCD作品でもある。
(メジャー1stの録音は〜という話は置いておくとして。)
この盤では、後に東芝EMIからリリースされるメジャー1stの広告煽り文にもあったような
「鋭角サウンド」はまだそこまで顕著な個性と言えるほど前面には出ておらず、
代わりに青春の淡い煌きや夏の匂いが封じ込められている。
そしてその風向きは、時に爽やかなノスタルジーに、時に青臭く恥ずかしいメモリーにと揺れ動く。
そんな「青春」をキーワードにして語ることのできる作品ではあるが、
メロコアや青春パンクのそれとは汗のかき方が異なっていて、
ネアカな体育祭のヒーロー的な輝きというよりは、
文系特有のイマジナリーな心象風景としての観念的な「青春」とする方がしっくりくる。
少なくとも、青春映画の主人公のような人生を齧ったことのある人間のものではない。
そうなると際立つのが、向井秀徳の世界観だ。
彼が描写する女の子は、あくまでも距離を置いて見る対象である。
思い出の中では時間を共にしていたとしても、少なくとも今現在自分の隣にはいない。
しばしば出てくる女学生のイメージは仲がいいクラスメートではないし、ましてや、手を繋いでなんかいない。
青春の真っ只中にいながら、何も出来ずにいる男。
しかし、その無力さや妄想のみが広がる哀しさこそが「青春」の空気を作り出しており、
焦りや燻りは来るべき時に備えて若き日に蓄えられたエネルギーに他ならない。
(ただ、そのエネルギーは結果的に"TATTOあり"のような歪な形で発散されることになるのだが。)
短くアツい夏のような伝説はここから始まった。
by taku_yoshioka
| 2012-06-01 00:46
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