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後がない地球を救えるのは結局菜の花 なのかな(Finale/降神)

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大ベテラン萩尾望都の最新短篇集。
所謂「311以降」の作品になるが、特に原発問題をテーマの中心に据えて描かれた。

プルトニウムやウランを超人的な魅力を持つ美男美女に見立て、
SF・ファンタジー色の強い作品に仕上げた3部作は、
3つの独立した話に分かれてこそいるものの話の展開やセリフ回しは共通する部分があり、
繰り返し読むことで物語が抜け落ちてメッセージだけが残るような造り。
また、宮沢賢治の作品をモチーフにした巻末の書き下ろし作品では、
震災発生から約1年を経た福島を舞台にすることで、
限りなくリアルタイムに近いスピードで現地の人々の心情を伝えてくれている。

個人的に最も心に残ったのは、冒頭に収録された表題作。
福島と同じく、原子力発電所の事故によって汚染されたチェルノブイリのエピソードを交えつつ、
同地で土壌の再生のために植えられた菜の花に希望が託される。
(その効果については懐疑的な意見も少なくないが、重要なのはそこではない。)

さて、これらの5つの短編だが、作品としての完成度に拙さがないと言えば嘘になる。
放射性物質の擬人化3部作については、ともすれば小学生向けの学習マンガのような仕上がりで、
同様の機能を持たせていた作品は、90年代においては環境問題や動物保護を扱っていたように思う。
しかも、取り立てて斬新な視点から描かれた訳でもないため批評性は弱く、
先に挙げた学習マンガのような印象と相まって、全ての大人の満足に値する出来とは言いがたい。

しかし、この整理されていない心の蠢きこそが、萩尾望都が感じていたものであり、
震災以降唐突に流れ込む情報と現実に直面した時に、我々の大半が陥った状態なのだと思う。
何より、帯文にも書いてあるとおり、萩尾望都の心の整頓のために描かれた意味合いも強い作品なのだ。

加えて言うならば、先述のように学習マンガ的な役割が果たせる本作は、
練者ならではの無駄のない展開からスムーズに読み進めることができるので、
それこそ子供たちが読んでもいいように思う。
by taku_yoshioka | 2012-05-30 00:31 | comic

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka