ballade des menus propos
「ミルクの中にいる蠅 その白と黒はよくわかる
なんだってわかる 自分のこと以外なら—」
冒頭、土砂降りの雨に打たれながらヴィヨンの"軽口のバラード"を読み上げる茶沢景子(二階堂ふみ)と、
瓦礫の中で佇み、こめかみに当てた拳銃の引き金に指をかける住田祐一(染谷将太)。
二人の主人公の鮮烈なシーンとともに、この物語は始まる。
古谷実の同名コミックを原作に、近年一層評価の高まっている園子温監督がメガホンを取った本作。
震災後の福島を舞台としており、全編を通して続く曇天・雨天による暗鬱としたムードが支配する。
ベネチア国際映画祭で新人賞を受賞した主演二人の演技は見事の一言。顔つきも良い。
おそらく、両名ともにほぼ間違いなくこれから更に上のステージへと羽ばたいていく逸材だろう。
さて、若手二人の名演がニュース的なトピックとして世間を賑わせたこの作品だが、
内容面での重要なファクターに、東日本大震災からの影響がある。
脚本も手がけた園子温監督が語っているように、震災の発生を受けて
当初描いていた作品から変更や追加が施された上での公開となった。
挿入される被災地の映像や、台詞の端々から感じられる震災が落とした影、
また、劇中のテレビ番組が流す原発関連のニュース等は、当然ながら原作のマンガにはなかったものだ。
その結果、ストーリーが散漫になってしまった部分があるのは否めないし、
原作や園子温監督の過去作が持っていた無慈悲な世界観が薄れてしまってもいる。
これが原作や園子温の熱烈なファンほど、本作への評価が厳しくなる大きな要因であり、
原作に大いに唸らされた身としては、その気持ちもよくわかる。
しかしそれでも、ラストシーンの二人の叫びは胸を衝く。
涙ながらに交換された「頑張れ」は、何も住田だけに向けられたものではない。
住田は、この国の未来の表徴であり、すなわち今生きている我々全てでもある。
原作を愛しながらも、その衝撃のラストを変えてまで
園監督が伝えたかったこと、伝えなければならなかったこと。
2011年に生まれた映画として、多くの意味で希望に満ちた一作だと感じた。
by taku_yoshioka
| 2012-03-06 23:59
| movie