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前回から引き続き"コクリコ坂から"について。

宮崎吾朗監督作品とは、というものを語れるほど作品も出ていないのだけれど、
今回観たことで一種の個性やその輪郭は前よりも見えてきたように思う。

それは、父親である宮崎駿との対比や、
同じく気鋭の監督である米林宏昌との対比でより明確になる。

ということで、宮崎吾朗監督について両名との比較をしながらの感想以上分析以下。

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○宮崎駿との比較

偉大すぎる父親を持った男のカルマとして、
宮崎吾朗は監督の座につく限り宮崎駿と比較されることは免れない。
それはもう、残酷なほどに。

だからこそ前作"ゲド戦記"では、テーマに「親殺し」を盛り込むという
大いなる挑戦に果敢にも挑んだのだが、結果的に玉砕してしまった。

そんな境遇に置かれる宮崎吾朗監督が
第2作目"コクリコ坂から"で表現したものの一つが父性の強調だった。

宮崎駿は女性キャラクターを物語の中心に据えることが多く、
それはそのまま母性の訴求となり、駿作品の特色にもなっている。
故にマザコンだの何だのとも言われるのだが、
ある種のフィロソフィーとして芯になっている分安定感があるのも間違いない。

それに対するアンチテーゼという訳でもないのだろうが、
今回父性を物語の中心的な要素に据えたのは、
差別化という意味でも、世代交代という意味でも重要なポイントだ。

"コクリコ坂から"を観てもらえればすぐにわかるように、
描かれる親子関係は父と娘、父と息子が中心。
そして、海が俊に父の影を重ねるシーンもあり、
宮崎駿作品にはない父としての男性が描かれている。
同時に、これらの父親の大きさを受け入れたことがわかる描写からは、
宮崎吾朗が吹っ切れたことが伝わってくる。

また、宮崎駿がマザコンと同様によく言われるのがロリコンだ。
少女キャラでありながらも、ナウシカやサンは妙に色っぽかったりもする。

これらと比較すると、海を始めとする"コクリコ坂から"の女性キャストはセクシャルではない。
もっと言うと、色気どころか生気すら少し抜けてる向きさえある。
瑞々しい思春期の学園生活を舞台にしているにも関わらず、
記号化された青春っぽさとして着地していて、妙にドライな質感。不思議な感覚が残る。

最後にもう一つ。
宮崎駿は台詞を軸に作品を組み立てる(ことも出来る)。
ナウシカやラピュタ、魔女の宅急便やトトロが語られるときに、
好きな台詞について触れないということはないというほどに。
ここにジブリ映画の魅力の多くを求める人にとっては平坦な印象は残ってしまうし、
物足りなくもなるはず。

この台詞の扱い方をクリアできると、
また一つ評価も高まりそうな予感はするのだけれど。


○米林宏昌との比較

さて、宮崎吾朗監督が父親と比較されてしまうのは必然中の必然だが、
もう一人比較対象の筆頭として挙げられるとすれば
"借りぐらしのアリエッティ"でメガホンをとった米林宏昌だろう。

その本気度や信憑性は我々が知る由もないが、
宮崎駿は引退をほのめかす発言を自らの口から度々している。
これは単に彼が優柔不断だったり気分屋だったりという訳ではない。
やめようとする気持ちも本当だろうし、
続けようとする気持ちも本当なのだと思う。

それだけ逡巡してしまう理由はシンプル。
後継者の不在、そしてその後のスタジオジブリへの不安だ。

中でも、次代のジブリを担う存在として急務とも言えるのが
宮崎駿の後任となる監督探し。
そこで白羽の矢が立てられた一人が実の息子の宮崎吾朗であり、
もう一人が米林宏昌だったのである。

米林宏昌はアニメーター出身でありながらも、
鈴木プロデューサーにその度胸を変われて
監督に抜擢されたという経緯を持つ。

それだけに「画」の使い方や見せ方は宮崎吾朗よりも上手い。
横顔の撮り方や遠近感/高低感の出し方は初監督作品とは思えないほどで、
それだけでも"アリエッティ"は相当に「観られる」作品に仕上がっている。

一方で"コクリコ坂から"のようなベタな演出がなかった作品でもあり、
良くも悪くも世界観を守った、まさに箱庭的な設えだったと言えよう。

故に、二人の良さがうまく合わさってくれれば、
宮崎駿に追いつけるとまでは言わないが、さらに一段階上の作品が出来る気はする。

とにもかくにも、スタジオジブリが次のステージに進んだことは間違いなく、
そんな中で切磋琢磨しあう監督がほぼ同時に誕生したのは喜ばしいことだ。
by taku_yoshioka | 2011-08-05 00:12 | movie

Ok, it's the stylish century


by takuyoshioka